『特殊まんが -前衛の-道(根本敬)』を読んだ感想

昨年(2009年)は、知らない間にすごい事になっていたらしく 根本敬さんの「文章の」本が3冊も立て続けに発表されていました

根本敬の”文章”の本が3冊も!

その3冊が↓こちら。

『特殊まんが-前衛の-道』
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『真理先生』
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『映像夜間中学講義録 イエスタディ・ネヴァー・ノウズ』

先日、偶然に(遅ればせながら)その事を知り、早速購入しようと思ったのですが、さすがに3冊一括購入は金額的にも無理があるので、『特殊まんが-前衛の-道』と『真理先生』に関してはまず、図書館で借りて読み しかるべき後に購入しよう…と、そういういうことになりました。

で、目黒区図書館ネットワークにて図書検索をかけたとろ、さすがは根本先生のお膝元だけあって2冊とも区内に複数冊の所蔵があり、WEBにて申し込んで翌日には手に入れる事ができました(ちなみに 別の区の図書館ネットワークで同様の検索をかけても 一切ヒットはありませんでした)。

せんずりから場末のストリップ劇場へと…

で、まず読んだのが『特殊まんが-前衛の-道』。

タイトルどおり、根本氏の歩んできた「(特殊)まんが道」が順を追って語られる内容で、これが普通の漫画家・作家であれば「自伝的エッセイ」といったジャンルに括られるものになるのでしょうが、とはいえ、そこはそれ 根本敬。

当然 一筋縄ではいかず、幼少時の思い出の途中に、韓国の大学での講義や内田裕也、勝新太郎らとの邂逅の風景などが、時空をこえて自在に入り乱れながら語られていきます。

「マスターベーション」と「せんずり」

本書で最も心に残ったのは、ラスト近くの一節。

マイナー分野での創作活動を「作者のマスターベーション」と評されることに反論したくだり。

“そもそもせんずりを「マスターベーション」と呼ぶやつは信用できない”と前置きしたうえで、創作活動のアマチュアからプロへ、そしてプロとして周囲の賞賛を得るまでの過程を、根本氏独自の言い回しで熱く語るくだりは、ある意味で本書のクライマックス。

アマチュアの創作活動を”せんずり”に、プロである事を”セックス”に例え、せんずることの明け暮れに やがてそれが性交(素人であれ玄人であれ)に導かれ、せんずりと性交の狭間で行きつ戻りつし、しかし その精進のはてに、やがて場末のストリップで仕事モードのばばあを、昇天させるまでに至る…というようなそのダイナミズムこそ「クリエイティブ」ということなのではないか…と解く姿は圧巻。

「○○の卵」ではなく「童貞」と考える

例えば、漫画でも役者でもミュージシャンでも なんでもよいのですが、デビューするかしないか・・・つまりアマチュアかプロか、と言った事に関して「童貞」「非童貞」という概念を持ち込んでみると、世の中あっさり腑に落ちるところがいくつもあり、「なるほどそうか俺はいま童貞なのか」と自覚してみると、今更ながら次に進む道筋も見えてくる気がします。

過去の文章本『因果鉄道の旅』や『電気菩薩』などのアクの強い内容を期待するとやや肩すかしになるかもしれませんが、そこかしこにちりばめられた”真理”を求めて、おそらく今後何度もここにかえってくるのだろうと思わせる、まごうことなき根本ワールドの一冊でした。

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