『ホームレス人生講座(風樹茂)』を読んだ感想

この記事では『ホームレス人生講座(風樹 茂)』読んだ際の私の感想をまとめています。

ぼんやりとした不安。

いきなりでなんだが、私は昔から 自分がいつかホームレスになってしまうような気がしている。

といっても それは例えば「このご時世どんな人間にもその可能性はある・・・」といった確率論的な問題ではなく、なにか強迫観念に近いものとして常に頭の隅に存在している。

もちろんホームレスになどなりたくはないし、世捨て人的な生活に憧れるといったこともない。 

にもかかわらず 街でホームレスの方を見かければ"いずれ自分もこうなってしまうに違いない"という妄念にとりつかれ、しばらくの間 ウーだのアーだのと思い悩んでしまう。

先日読んだ 根本敬『真理先生』内で 彼が似たようなことを考えているくだりがあって「人間 意外と同じようなことを考えるもんだね」と苦笑したのだが、まあそれはそれとして、そのような浅からぬ思いをもって 中公新書ラクレ『ホームレス人生講座』を図書館で借りだした。

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作者の自分語りはいらない・・・

日本社会古来の「縁」が、近年 加速度的に崩壊しつつあり、縁の希薄化によって生み出された副産物こそ「ホームレス」という存在なのだ、というのが作者の主張である。

はじめに結論ありきの印象

ただ それが、ホームレスたちへの聞き取りを通して見えてきたというのでなく、まず結論があり それを補足&強化するために インタビューが利用されているように見受けられるところが随所にあった。

誰もが納得せざるを得ない安全パイの主張を立ててその周囲をぐるぐる回っているだけ、という印象。

ラストには、ホームレスを離れて(なぜか)「少年A酒鬼薔薇聖斗」に共感したという作者の”自分語り”へと流れ出してしまう感傷的なつくりになっていて、辟易とさせられる場面も・・・ 

本書をひとつの「作品」としてとらえると、作者の「主張」が前面に出すぎ 正直 説教臭ささが強くなってしまった感が否めない。

「資料」としての面白さ

ただ、本書を「作品」としてではなく、ひとつの「資料」としてみたときには 非常に面白い内容だった。

興味深かったのが、本書に登場する多くの人が「ホームあり」から「ホームレス」になる際、同じような経緯を辿っていた点。

いきなり路上生活が始まるのではなく・・・

アパートを出て、カプセルやらビジネスやらのホテル暮らしがしばらくあって、そこに泊まる金も尽き やがて路上生活へといたってしまう・・・

つまり、例えば 住んでいたアパートなりマンションなりの金が払えなくなって、即、公園で寝泊りするようになるわけではないんだね。

本書は2002年の出版なんだが、現在でいえばネットカフェとか漫画喫茶なんかも含まれるんだろうね。

もちろん一般化して語ることはできないんだけども、カプセルホテルやサウナ、漫画喫茶なんかが「ホームあり」と「ホームレス」の緩衝地帯として機能しているってことなんだな。

職を転々とする

それと、職を転々としていく感じね。

デザイナーだったり、営業職だったりで長く働きそれなりの地位にいた人達が、その仕事を失い 季節労働なり派遣なりの一時労働者みたいなものを経験して、しかし長くは続かず やがて、衰退していく感じ。

これは共通していたんだな。

親の介護を巡って・・・

それと、老いた親の介護をめぐる問題ね。

一見 順調に暮らしていたかにみえる夫婦が、親の介護(世話)をめぐって意見が食い違い、やがて崩壊に至っていく姿は 本当につらいものがありますね。

まとめ

“ホームレス”という言葉が端的に指し示すように「衣・食・住」において、社会的に「住」の持つ意味合いの大きさっていうを痛感する内容でしたね。

住む場所(というか 公的に保証された住所)さえ確保できていれば、たとえ毎度の飯がどこかのゴミ箱から拾ってきた残飯であっても、ホームレスではないわけで、ひとつ勉強になりました。

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